苫小牧市勇払埠頭に揚げられたナガスクジラについて

【ナガスクジラについて】
学名 Balaenoptera physalus
IUCN-EN/水産庁-普通(アジア系、アメリカ系個体群)
日本哺乳類学会-希少(西部北太平洋個体群)
絶滅の危機にあるとされる地球最大の哺乳類シロナガスクジラとは別種。
ナガスクジラは一般に成体で体長は約17m(最大で北太平洋では22.6m)、体重は約30tになる。手元にある資料では、最北での漂着記録は青森県であり、北海道で初めての漂着例である可能性がある。日本海側では、漂着報告が多いが、太平洋側は希。日本鯨類研究所が行っている、北西太平洋における鯨類目視調査によれば、個体数はミンククジラよりも圧倒的に少なく、希少だけれども若干増加傾向にある。
ナガスクジラの外見の特徴は、右側が白く、左側が黒いのが特徴。ウネは腹まで達する。多くの場合外洋性。南氷洋では調査捕鯨で、ここ数年50頭を目標に捕獲調査をしようとしているが、妨害等によりほとんど調査できていない。
ナガスクジラの詳細な食性は不明であるが、ナガスクジラ科鯨類はオキアミや表層性の小魚(イワシ・サンマ・小型のスケトウダラ)や表層性のイカ(スルメイカなど)を食べる。
国立科学博物館 海棲哺乳類図鑑
過去の漂着記録 
【今回漂着した個体について】
今回漂着した個体は、死後3~7日経過したものと思われる。今のところ、船に当たったり網に絡まったりしたときに生じる外傷は見あたらず、人為的に死んだ証拠は無い。
漂流していた個体が、川崎近海汽船の貨物船「ひたち」の舳先に乗り、苫小牧港に運ばれたもの。舳先に乗った場所は不明であるが、入港スタンバイ時に航海士が発見した(船員談)とのことなので、外洋で遭遇したものと思われる。
ひたち 東京(有明)との間を往復するRORO船 総トン数7096t
定時 3月1日03:00苫小牧入港 14:00苫小牧出港
【今回の調査について】
北海道内の鯨類研究者、博物館・水族館等、ナチュラリスト、一般市民などによって組織されている「ストランディングネットワーク北海道」 が調査を実施。
調査項目:
1 外部形態詳細測定・撮影
2 DNA標本採集
3 胃内容物採集
4 臓器等の採集
5 皮脂の採集
6 その他、参考となる可能性のある標本の採集
研究目的:
1 北太平洋に生息するナガスクジラの生物学的特徴を明らかにするために、外部形態、DNA情報等をデータベースに掲載する。個体数が集まることによって、次第に、特徴が明らかになる。
2 胃内容物から何を食べていたのかを調べ、漁業との競合の有無を明らかにする。
3 臓器等を採集し、国立科学博物館等で詳細な病理分析をして、可能ならば死因を特定する。(腐敗等により困難が予想される)
4 皮脂・肝臓等に蓄積される化学汚染物質等を愛媛大学等で詳細に分析して、海洋の汚染や成体濃縮の実態を明らかにする一助とする。
5 学生の鯨類解剖体験、トレーニング。
調査開始:3月2日8時30分、終了 同日14時20分終了
調査員:北海道大学松石研究室、北海道大学鯨類研究会学生等 12名