生きたイルカ・クジラが打ち上がったら

生きたイルカやクジラが打ち上がったら,慌てて海に押し返したりせず,まずは落ち着かせてください。その間に専門家に連絡し,指示を仰ぎましょう。

大切なことをイラストにまとめました。

北海道でイルカ・クジラの漂着を見付けたら,生死に関わらず,ストランディングネットワーク北海道にご連絡ください。詳しくはこちら
こちらのポスターCC BY 4.0 ライセンスにより再配布可能です。

2021年初来受報件数歴代第2位

2021年1月からの報告件数は,2020年に次いで歴代第2位のペースです。2月末まで報告が1件もなかった時期が続きましたが,その後順調に受報件数が伸び,7月は17軒,8月は20軒と追い上げています。
一般の方からの通報は,今年より開始したライン公式アカウントから多くいただいています。

SNH標本による論文

SNHの標本を使用した学術論文が発表されました。ネズミイルカの寄生虫に関する論文です。

Katahira H, MatsudaA, Banzai A, Eguchi Y, Matsuishi TF (2021) Gastric ulceration caused by Anisakis simplex sensu stricto in a harbor porpoise from the Western Pacific stock, with a molecular approach. Parasitology International 83 102327

https://doi.org/10.1016/j.parint.2021.102327
期間限定公開 https://authors.elsevier.com/c/1coh94wbiQvKeH

年間受報件数が過去最高になりました

年初からの累積受報件数を創立した2007年以来調べたところ,過去最高となりました。8月に入って8日間で10件とハイペースで鯨類漂着の報告を受けておりました。その後,9月以降は落ち着いたとは言え,10月中旬まで例年を上回るペースとなり,2020年は第2位2009年79件を16件上回る95件となりました。

8月にハイペースであった時期はカマイルカとスジイルカの漂着が目立ちます。カマイルカは相当に腐敗が進んだ個体が多い一方,スジイルカは漂着後に死亡した個体も見受けられます。地震発生との関連が議論される,マスストランディング(群れごと砂浜に上陸してくる)とは様相が異なっています。

生物学的な共通の特徴は,いまのところ認められませんが,通報の経緯などから,初めての一般の方からの通報が多いこと,また,海岸管理者の振興局建設管理部に連絡すると我々に通報するように示唆されて市町村の担当者が通報してくださるケースが目立ちます。

ストランディングネットワーク北海道へ通報すると活用されるということが,広く知られるようになったことが,通報件数を引き上げている一因のように思います。twitterFacebookでのアクセスも多くなったことも一因ですが,今までご対処いただいていた建設管理部担当者の方が後任に引き継いだり,転勤先で広めてくださったりしているのだろうと思います。大変ありがたく思っています。

漂着場所が最寄りの調査隊から遠かったり,通報が重なった場合,その他様々な状況によって,現地に出動できないこともあります。特に8月は調査隊のメンバーが帰省等で揃わなかったり,漂着鯨類研究者の集まりがあったりして,出動できない可能性もありますが,通報された漂着はできる限り活用したいと考えています。通常は調査に出動しない状況でも,たまたま近くに調査隊が出向いていたりする場合は,調査に出向けることもあります。

もし,北海道でイルカ・クジラの漂着を見かけたら,お知らせいただければ幸いです。詳細はこちらをご参照ください。

漂着場所マップ

2007年~2020年の漂着場所マップを作成しました。マークをクリックすると,SNH番号や鯨種が表示されます。

ハッブスオウギハクジラについて

4月14日に様似町で座礁死亡したハッブスオウギハクジラは、大変希少な種です。今回の漂着は、世界で62例目、日本で18例目、北海道で5例目になります。

クジラ目ハクジラ亜目アカボウクジラ科オウギハクジラ属に属し、学名は Mesoplodon carlhubbsi 

標準的成熟雄個体はには噴気孔の前部にはっきりと白い部分があります。クチバシの先端部には白色。歯は大きくて、扁平で幅広く、顎の先端から口角までのほぼ半分のところにある隆起部に萌出します。喉の部分の溝は長く。体表には引っかき傷が多く見られます。外洋性。数頭の群をつくるとされています。

世界では今死亡個体報告例のほとんどは北米大陸太平洋側のカリフォルニアからブリティッシュコロンビアにかけてのものであり、多くは流し網による混獲でした。流し網が禁止になった後は発見例がほとんどありません。

日本では、静岡、神奈川、東京、茨城、宮城、岩手、青森と北海道で発見例があり、全てが太平洋側です。北海道では、
2004.12.12 幌泉郡えりも町
2008.06.19 日高郡新ひだか町
2009.08.09 根室市
2011.05.29 二海郡八雲町
で報告されています。

今回のように、座礁時に生存していた例は、2005.10.21神奈川県中郡二宮町での発見以来、2例目となります。

4月14日10時頃、平宇海岸に座礁しているとの情報が地元駐在所から役所に連絡が入りました。発見当時は生存していたとのことですが、程なく死亡してしまいました。14日のうちに様似町が様似川河口に搬送しました。

4月15日に漂着現場近くで、ストランディングネットワーク北海道が調査を行います。参加研究機関は北海道大学、国立科学博物館、帯広畜産大学、愛媛大学他の研究者が調査を行い、標本は、これらの機関の他、日本全国の研究機関に配分して分析していただきます。

調査項目は
・外部形態写真撮影
・外部形態測定
・解剖(臓器摘出、標本採材、骨格採集)

これらによってわかる可能性のあることは
・生態(成熟、年齢等)
・死因(病変、外傷等)
・食性(胃内容物調査、安定同位体分析等)
・環境汚染物質

これらの研究を通じて、
・希少鯨類の保全
・鯨類と漁業の共存
に寄与していきたいと考えております。

なお、ストランディングネットワーク北海道では、道内の鯨類(イルカを含む)の漂着情報を集めております。腐敗しているものでも、学術研究に使える場合が少なくありません。http://kujira110.com/ に詳しく記載しております。ご協力をよろしくお願い致します。

この文書のURL http://kujira110.com/?p=1717

鯨類以外の漂着について

IMG_1891.jpg最近、鯨類以外の漂着の情報提供が増えてきています。
残念ながら現在、私たちで、鯨類以外について対処できる能力がありません。
以下の機関/団体が、トド、アザラシ、ウミガメについて情報を収集していますのでご紹介します。
トド:北海道区水産研究所 トド担当 0154-91-9136
アザラシ:北海道大学資源生態学領域 0138-40-8863 (担当:ホリモト)
海亀:北大海亀研究会  080-6090-6628

SNH14035 ナガスクジラについて

SNH14035について、慎重に検討した結果、尾鰭の模様から「ナガスクジラ」と同定いたしました。

相当に希少な種で、北海道では3件目の漂着報告になります。

1件目:SNH08069? 貨物船が舳先にナガスクジラの死体を引っ掛けて苫小牧港に入港した。どこで引っ掛けたかは不明

2件目:SNH09007? 1930年漂着。お寺の鯨塚の中から骨が出てきた。漂着時の写真も残っており、ナガスクジラと同定

で今回が3件目となり、通常の形で近年に漂着したものとしては、初めてということになります。

関係があるかどうかわかりませんが、ナガスクジラ2頭が噴火湾で観測されたことが6月24日に報道されていました。

 

SNH14035尾鰭
今回のナガスクジラの尾鰭

SNH13035尾鰭
ザトウクジラの尾鰭

OLYMPUS DIGITAL CAMERA
SNH08069ナガスクジラの尾鰭