2010年9月25日に函館市石崎町に漂着した鯨類について

■種名: タイヘイヨウアカボウモドキ Longman’s beaked whale Indopacetus pacificus
■体長: 619cm
■性別: メス
■状態: 腐敗初期、死後数日と推定される
■本種の希少性: 日本近海では極めて希少。漂着は鹿児島で2002年7月26日に、世界で初めて全身が発見されて以来2例目。函館での発見は知られている分布域の北限、東限を更新することになる。
■本種の特徴: 頭骨から1926年にLongmanによって新種と報告されていたが、全身が見つかったのは2002年に鹿児島で打ち上がった個体が初めて。アカボウクジラ、トックリクジラと外形が似ているが、吻の長さや背鰭の大きさが他の鯨種とは大きく異なる。全身にダルマザメによる傷痕があり、特に生殖孔と肛門付近では傷痕が密。新しい傷痕にはクジラジラミが多数いる。
■本種の分布: 生息域はインド洋についてはアフリカに近い南西部からモルディブにかけて、太平洋についてはオーストラリアから日本にかけての海域。一部、大西洋の熱帯海域にも棲息するらしい。ハワイ沖では頻繁に目撃されている。
■発見の経緯: 9月24日夜から25日朝の間に漂着した。9月25日朝地元住民が発見し、漁協に連絡、漁協より函館市役所とストランディングネットワーク北海道に通報があった。
■調査: ストランディングネットワーク北海道が、国立科学博物館 山田格博士の指導の元で実施。調査員は、国立科学博物館研究者および北海道大学鯨類研究会学生等。希少鯨種の生態と死因を明らかにし保全に役立てること、鯨類と漁業の競合実態の解明することを目的としている。
調査項目は以下の通り。
・外部形態測定/写真撮影
・食性解析:胃内容物を採集し、何を食べていたかを調べる
・病理組織採集:各臓器を採集し、病変が無いかを調べる
・環境汚染物質の解析:皮脂・筋肉等に汚染物質が蓄積されていないかを調べる
・DNA標本の採集: 最終的な種判別、個体群構造等の解明のため
・骨格の採集
採集した標本等は、国立科学博物館、北海道大学、愛媛大学、日本鯨類研究所、酪農学園大学、北海道医療大学、北里大学獣医学部等に送付し、詳細な分析に供する。
■漂着・死亡原因: 現時点で不明。漁網への混入、船との衝突などの証拠は無い。死亡後に漂着したと考えられるので、浅瀬に迷入したわけではない。本日の解剖を通じて推定を試みる。
■鯨類の漂着について: ストランディングネットワーク北海道の調べでは道内で60?90件の鯨類(イルカを含む)のストランディング(座礁・漂着・混獲)が報告されている。2009年は69件73頭。
函館市での最近の漂着(混獲を除く)は
-SNH10023 ミンククジラ 2010年5月20日 木直町
-SNH09002 ネズミイルカ2009年4月10日 広野町
-SNH08044 種不明マイルカ科鯨類 2008年7月15日 新湊町
■漂着鯨類調査の必要性: 希少鯨種の生態と死因を明らかにし保全に役立てたり、鯨類と漁業の競合実態を解明したりするためには、漂着鯨類の調査を積み重ねていくことが大切です。日本セトロジー研究会(山田格代表)を中心に、国立科学博物館、日本鯨類研究所は国内のストランディングの情報と標本を収集しています。北海道内ではストランディングネットワーク北海道が情報と標本を収集し、国立科学博物館、日本鯨類研究所と共有しています。
■参考
・ストランディングネットワーク北海道 http://snh.seesaa.net/
・2002年7月26日鹿児島県に漂着したクジラについて http://svrsh1.kahaku.go.jp/m/mm/longman.html