年初来累積受報件数が過去最高になりました

年初からの累積受報件数を創立した2007年以来調べたところ,過去最高となりました。8月に入って8日間で10件とハイペースで鯨類漂着の報告を受けております。

ここ数週間はカマイルカとスジイルカの漂着が目立ちます。カマイルカは相当に腐敗が進んだ個体が多い一方,スジイルカは漂着後に死亡した個体も見受けられます。地震発生との関連が議論される,マスストランディング(群れごと砂浜に上陸してくる)とは様相が異なっています。

生物学的な共通の特徴は,いまのところ認められませんが,通報の経緯などから,初めての一般の方からの通報が多いこと,また,海岸管理者の振興局建設管理部に連絡すると我々に通報するように示唆されて市町村の担当者が通報してくださるケースが目立ちます。

ストランディングネットワーク北海道へ通報すると活用されるということが,広く知られるようになったことが,通報件数を引き上げている一因のように思います。twitterFacebookでのアクセスも多くなったことも一因ですが,今までご対処いただいていた建設管理部担当者の方が後任に引き継いだり,転勤先で広めてくださったりしているのだろうと思います。大変ありがたく思っています。

漂着場所が最寄りの調査隊から遠かったり,通報が重なった場合,その他様々な状況によって,現地に出動できないこともあります。特に8月は調査隊のメンバーが帰省等で揃わなかったり,漂着鯨類研究者の集まりがあったりして,出動できない可能性もありますが,通報された漂着はできる限り活用したいと考えています。通常は調査に出動しない状況でも,たまたま近くに調査隊が出向いていたりする場合は,調査に出向けることもあります。

もし,北海道でイルカ・クジラの漂着を見かけたら,お知らせいただければ幸いです。詳細はこちらをご参照ください。

漂着場所マップ

2007年~2019年の漂着場所マップを作成しました。マークをクリックすると,SNH番号や鯨種が表示されます。

ハッブスオウギハクジラについて

4月14日に様似町で座礁死亡したハッブスオウギハクジラは、大変希少な種です。今回の漂着は、世界で62例目、日本で18例目、北海道で5例目になります。

クジラ目ハクジラ亜目アカボウクジラ科オウギハクジラ属に属し、学名は Mesoplodon carlhubbsi 

標準的成熟雄個体はには噴気孔の前部にはっきりと白い部分があります。クチバシの先端部には白色。歯は大きくて、扁平で幅広く、顎の先端から口角までのほぼ半分のところにある隆起部に萌出します。喉の部分の溝は長く。体表には引っかき傷が多く見られます。外洋性。数頭の群をつくるとされています。

世界では今死亡個体報告例のほとんどは北米大陸太平洋側のカリフォルニアからブリティッシュコロンビアにかけてのものであり、多くは流し網による混獲でした。流し網が禁止になった後は発見例がほとんどありません。

日本では、静岡、神奈川、東京、茨城、宮城、岩手、青森と北海道で発見例があり、全てが太平洋側です。北海道では、
2004.12.12 幌泉郡えりも町
2008.06.19 日高郡新ひだか町
2009.08.09 根室市
2011.05.29 二海郡八雲町
で報告されています。

今回のように、座礁時に生存していた例は、2005.10.21神奈川県中郡二宮町での発見以来、2例目となります。

4月14日10時頃、平宇海岸に座礁しているとの情報が地元駐在所から役所に連絡が入りました。発見当時は生存していたとのことですが、程なく死亡してしまいました。14日のうちに様似町が様似川河口に搬送しました。

4月15日に漂着現場近くで、ストランディングネットワーク北海道が調査を行います。参加研究機関は北海道大学、国立科学博物館、帯広畜産大学、愛媛大学他の研究者が調査を行い、標本は、これらの機関の他、日本全国の研究機関に配分して分析していただきます。

調査項目は
・外部形態写真撮影
・外部形態測定
・解剖(臓器摘出、標本採材、骨格採集)

これらによってわかる可能性のあることは
・生態(成熟、年齢等)
・死因(病変、外傷等)
・食性(胃内容物調査、安定同位体分析等)
・環境汚染物質

これらの研究を通じて、
・希少鯨類の保全
・鯨類と漁業の共存
に寄与していきたいと考えております。

なお、ストランディングネットワーク北海道では、道内の鯨類(イルカを含む)の漂着情報を集めております。腐敗しているものでも、学術研究に使える場合が少なくありません。http://kujira110.com/ に詳しく記載しております。ご協力をよろしくお願い致します。

この文書のURL http://kujira110.com/?p=1717

鯨類以外の漂着について

IMG_1891.jpg最近、鯨類以外の漂着の情報提供が増えてきています。
残念ながら現在、私たちで、鯨類以外について対処できる能力がありません。
以下の機関/団体が、トド、アザラシ、ウミガメについて情報を収集していますのでご紹介します。
トド:北海道区水産研究所 トド担当 0154-91-9136
アザラシ:北海道大学資源生態学領域 0138-40-8863 (担当:ホリモト)
海亀:北大海亀研究会  080-6090-6628

SNH14035 ナガスクジラについて

SNH14035について、慎重に検討した結果、尾鰭の模様から「ナガスクジラ」と同定いたしました。

相当に希少な種で、北海道では3件目の漂着報告になります。

1件目:SNH08069? 貨物船が舳先にナガスクジラの死体を引っ掛けて苫小牧港に入港した。どこで引っ掛けたかは不明

2件目:SNH09007? 1930年漂着。お寺の鯨塚の中から骨が出てきた。漂着時の写真も残っており、ナガスクジラと同定

で今回が3件目となり、通常の形で近年に漂着したものとしては、初めてということになります。

関係があるかどうかわかりませんが、ナガスクジラ2頭が噴火湾で観測されたことが6月24日に報道されていました。

 

SNH14035尾鰭
今回のナガスクジラの尾鰭

SNH13035尾鰭
ザトウクジラの尾鰭

OLYMPUS DIGITAL CAMERA
SNH08069ナガスクジラの尾鰭

コマッコウについて

標準和名:コマッコウ
学名:Kogia breviceps
ハクジラ亜目コマッコウ科コマッコウ属に属する小型鯨類
小型のマッコウクジラという意味で「コマッコウ」という名前がついているが、体長からみると成体は大型のイルカ類の大きさで、クジラなのかイルカなのか区別がつかないが、鯨類であることには間違えない。
生まれた直後の体長は1.2m程度で、成体は3.5m 400kgとなる。今回発見された個体(SNH11043)の体長が目測1.5mと言われているので、それが本当ならば、幼体である可能性が高い。
近縁種にオガワコマッコウKogia simusがおり、背鰭形状が違うが外見からの区別が難しい。最終的にはDNAで判定される。
日本全国で年に年に4件程度の報告がある。関東を中心に本州太平洋沿岸で打ち上がることが多い。北海道内での漂着は1997年(苫小牧市有明)、2004年(茅部郡森町)2005年(浦河郡浦河町)
2006年には白骨化したオガワコマッコウが浦河郡浦河町で発見されている。
洋上での発見は困難で、死亡個体の漂着調査のみによって情報が集められている。今回の調査により、分布、食性、環境汚染物質蓄積、繁殖生態などについて、貴重な知見が得られることが期待される。

For English User

Stranding Network Hokkaido (SNH) is collecting stranding information on the coast of Hokkaido Island, Japan.
The information is reported on the web in Japanese, but you would easily understand most of the important information with the hints below.
If you would like to use the information or photo on the web page, please contact us.
整理番号:Sample Number
発見日時:date and time found yyyy年mm月dd日
受報日時:date and time reported to SNH yyyy年mm月dd日
場所:location
日本海Sea of Japan オホーツク海Sea of Okhotsk 根室海峡Nemuro strait
太平洋Pacific 噴火湾Funka bay 津軽海峡Tsugaru strait
緯度経度: lat. long.
状況・経緯:Situation and details
死亡dead 生存alive
新鮮Fresh 腐敗moderately decomposed 腐敗進行advanced decomposition
同時発見頭数:simultaneous discovery number of individuals
体長:Body length
鯨種:Species Name
性別:Sex
写真:Photo
通報経路:Report route
調査・採材:specimen collection
備考:remarks

2010年9月25日に函館市石崎町に漂着した鯨類について

■種名: タイヘイヨウアカボウモドキ Longman’s beaked whale Indopacetus pacificus
■体長: 619cm
■性別: メス
■状態: 腐敗初期、死後数日と推定される
■本種の希少性: 日本近海では極めて希少。漂着は鹿児島で2002年7月26日に、世界で初めて全身が発見されて以来2例目。函館での発見は知られている分布域の北限、東限を更新することになる。
■本種の特徴: 頭骨から1926年にLongmanによって新種と報告されていたが、全身が見つかったのは2002年に鹿児島で打ち上がった個体が初めて。アカボウクジラ、トックリクジラと外形が似ているが、吻の長さや背鰭の大きさが他の鯨種とは大きく異なる。全身にダルマザメによる傷痕があり、特に生殖孔と肛門付近では傷痕が密。新しい傷痕にはクジラジラミが多数いる。
■本種の分布: 生息域はインド洋についてはアフリカに近い南西部からモルディブにかけて、太平洋についてはオーストラリアから日本にかけての海域。一部、大西洋の熱帯海域にも棲息するらしい。ハワイ沖では頻繁に目撃されている。
■発見の経緯: 9月24日夜から25日朝の間に漂着した。9月25日朝地元住民が発見し、漁協に連絡、漁協より函館市役所とストランディングネットワーク北海道に通報があった。
■調査: ストランディングネットワーク北海道が、国立科学博物館 山田格博士の指導の元で実施。調査員は、国立科学博物館研究者および北海道大学鯨類研究会学生等。希少鯨種の生態と死因を明らかにし保全に役立てること、鯨類と漁業の競合実態の解明することを目的としている。
調査項目は以下の通り。
・外部形態測定/写真撮影
・食性解析:胃内容物を採集し、何を食べていたかを調べる
・病理組織採集:各臓器を採集し、病変が無いかを調べる
・環境汚染物質の解析:皮脂・筋肉等に汚染物質が蓄積されていないかを調べる
・DNA標本の採集: 最終的な種判別、個体群構造等の解明のため
・骨格の採集
採集した標本等は、国立科学博物館、北海道大学、愛媛大学、日本鯨類研究所、酪農学園大学、北海道医療大学、北里大学獣医学部等に送付し、詳細な分析に供する。
■漂着・死亡原因: 現時点で不明。漁網への混入、船との衝突などの証拠は無い。死亡後に漂着したと考えられるので、浅瀬に迷入したわけではない。本日の解剖を通じて推定を試みる。
■鯨類の漂着について: ストランディングネットワーク北海道の調べでは道内で60?90件の鯨類(イルカを含む)のストランディング(座礁・漂着・混獲)が報告されている。2009年は69件73頭。
函館市での最近の漂着(混獲を除く)は
-SNH10023 ミンククジラ 2010年5月20日 木直町
-SNH09002 ネズミイルカ2009年4月10日 広野町
-SNH08044 種不明マイルカ科鯨類 2008年7月15日 新湊町
■漂着鯨類調査の必要性: 希少鯨種の生態と死因を明らかにし保全に役立てたり、鯨類と漁業の競合実態を解明したりするためには、漂着鯨類の調査を積み重ねていくことが大切です。日本セトロジー研究会(山田格代表)を中心に、国立科学博物館、日本鯨類研究所は国内のストランディングの情報と標本を収集しています。北海道内ではストランディングネットワーク北海道が情報と標本を収集し、国立科学博物館、日本鯨類研究所と共有しています。
■参考
・ストランディングネットワーク北海道 http://snh.seesaa.net/
・2002年7月26日鹿児島県に漂着したクジラについて http://svrsh1.kahaku.go.jp/m/mm/longman.html